大阪地方裁判所 平成10年(ワ)3330号 判決 1998年12月24日
原告
奥田史
被告
上原鎌治
ほか一名
主文
一 被告らは、原告に対し、連帯して金七五万六九九〇円及びこれに対する平成九年六月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用は、これを一〇分し、その三を原告の負担とし、その七を被告らの負担とする。
四 この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
被告らは、原告に対し、連帯して金一一五万六九九〇円及びこれに対する平成九年六月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
一 本件は、原告が、被告らに対し、交通事故により損害を受けたと主張し、損害賠償を請求した事案である。
二 争いのない事実及び証拠(弁論の全趣旨)上明らかに認められる事実
1 交通事故の発生(以下「本件事故」という。)
(一) 日時 平成九年六月四日(水曜日)午後一〇時三五分ころ(天候くもり)
(二) 場所 大阪市淀川区塚本一丁目九番先交差点
(三) 事故車両 普通乗用自動車(なにわ五五く一五八五)(以下「被告車両」という。)
運転者 被告上原鎌治(以下「被告上原」という。)
所有者 被告米運交通株式会社(以下「被告米運交通」という。)
(四) 事故車両 普通乗用自動車(奈良三三ち六六三六)(以下「原告車両」という。)
運転者 原告
(五) 事故態様 被告車両と原告車両が信号機により交通整理がされている交差点で出会い頭に衝突(接触)した。
2 責任
被告上原は、被告米運交通の従業員であり、本件事故当時、業務のため、被告車両(タクシー)を使用していた。
三 原告の主張
1 責任
原告は、対面信号が青信号であったので、交差点に進入したところ、被告車両が赤信号を無視して右方から交差点に進入してきた。
したがって、被告上原は民法七〇九条に基づき、被告米運交通は民法七一五条に基づき、損害賠償義務を負う。
2 損害
原告は、修理費として六五万六九九〇円、評価損として三〇万円の損害を被った。
弁護士費用は、二〇万円が相当である。
四 被告らの主張
1 責任
被告上原は、対面信号が青信号であったので、交差点に進入したところ、原告車両が赤信号を無視して左方から交差点に進入してきた。
2 損害
被告米運交通は、修理費として三一万一八五〇円の損害を被った。
3 相殺の意思表示
被告米運交通は、原告に対し、平成一〇年五月二五日の本件口頭弁論期日(第一回)において、損害賠償請求権をもって、原告の本訴請求債権とその対当額において相殺する旨の意思表示をした。
五 中心的な争点
責任(原告と被告上原のどちらが青信号で進入したか。)
第三判断
一 責任(原告と被告上原のどちらが青信号で進入したか。)
1 裁判所の認定
原告が青信号で進入したと認めることができる。
2 理由
3(事実など)と4(評価)に記載のとおり。
3 証拠(甲一二ないし一九、乙三、四の一ないし八、証人奥松民子の証言、原告と被告上原の供述)によれば、次の事実を認めることができる。
(一) 本件事故現場の交差点は、信号機により交通整理がされている。
被告上原が進行した道路は、片側一車線の直線の道路であり、見通しはよい。最高速度は時速四〇キロメートルに規制されている。被告上原は、東から西に向かって進行した。
原告が進行した道路は、一車線の一方通行の道路であるが、信号機の見通しはよい。原告は、南から北に向かって進行した。
(二)(1) 証人奥松民子は、次の証言をする。
つまり、証人奥松は、本件事故当時、本件事故現場の交差点の東側(被告車両が進行してきた側)にある弁当屋で働き、掃除をするため、歩道に出ていたこと、歩道からは、信号機や交差点の状況がよく見えること、被告車両が進行した車線の対向車線の車両が停止し、被告車両の対面信号が赤信号であったこと、ところが、被告車両が交差点に進入し、被告車両と原告車両が衝突(接触)したこと、証人奥松は、本件事故直後、原告に近寄り、原告に対し、原告が青信号で、被告上原が赤信号であると告げたことなどの証言をする。
(2) これらの証言内容は、特に不自然や不合理なところがなく、これを採用することができる。
(3) これに対し、被告らは、証人奥松が被告車両を見続けているのはおかしいとか、本件事故後の状況を知らないとか、タクシー会社に反感を持っているなどと主張する。
しかし、証人奥松が交差点付近や進行車両を見ているのは何ら不自然ではないし、本件事故現場から立ち去ったとすれば、本件事故後の状況を知らなくてもおかしくはない。また、タクシー会社に反感を持っていたとしても、直ちに信用性がないとはいえない。したがって、証人奥松の証言を採用することができる。
(三)(1) 原告は、次の供述をする。
つまり、原告は、本件事故当時、友人を送るため、助手席に友人を乗せて進行していたこと、本件事故現場の交差点の数十メートル手前で、対面信号が青信号であるのを初めて見たこと、そのまま対面信号を見て進行し、交差点に進入したこと、ところが、右方から進行してくる被告車両を発見し、急ブレーキをかけたが、被告車両左側後部と原告車両び左側前部が接触したこと、本件事故直後、被告上原に話しかけたとき、被告上原は、一つ先の信号が青信号であると述べたこと、また、証人奥松が近寄ってきて、原告が青信号であると述べたことなどを供述する。
(2) これらの供述内容は、特に不自然や不合理なところがなく、これを採用することができる。
(3) これに対し、被告らは、原告が被告米運交通の担当者に対し赤信号で停止した後青信号に変わってから発進したと述べたから、これと異なる原告の供述には信用性がない旨の主張をし、乙六号証(会社の担当者の陳述書)を提出する。しかし、原告がそのような話をしたことを裏付ける客観的な証拠はない。
また、被告らは、原告が衝突時の車両の位置関係を知らないのはおかしいとか、原告の供述内容と車両の損傷の状況が一致しないなどと主張する。しかし、原告の供述を前提とすれば、瞬間の出来事であるから、衝突時の車両の位置関係を知らないのは自然であるといえるし、甲四ないし八号証(原告車両の損傷状況)、乙二号証(被告車両の損傷状況)を検討しても、原告の供述と車両の損傷の状況が矛盾しているとはいえない。
(四)(1) 被告上原は、次の供述をする。
つまり、被告上原は、本件事故当時、客を二名乗せて、本件事故現場の交差点にさしかかったこと、本件事故現場の交差点の信号と、一つ手前の信号と一つ先の信号は、系統式の信号であり、三つの信号は、ともに青信号であるか、赤信号であること、一つ手前の信号がある交差点の手前で、一つ手前の信号とその先の信号が青信号であるのを見て進行したこと、その後本件事故現場の交差点の信号を見ていないこと、本件事故直後、一つ先の信号を見たら青信号であったこと、そのため、原告に対し、一つ先の信号が青信号であると述べたこと、事情を聴かれた警察官から、系統式の信号でないといわれたことなどを供述する。
(2) これらの供述を検討すると、被告上原は、そもそも、本件事故現場の交差点の信号を見ていないから、被告上原の供述によっても、対面信号が青信号であったと認めることはできない。なお、被告上原は、本件事故現場の交差点の信号を見た旨の供述もするが、明らかに供述内容の変更であるし、変更の合理的な理由もないから、到底これを採用することはできない。
付言すると、被告上原の供述によれば、本件事故直後に、一つ先の信号が青信号であるのを見たというが、ミラーにせよ、目視にせよ、本件事故現場の信号を見ればよいにもかかわらず、なぜ見なかったのか疑問が残る。
結局、被告らの主張の裏付けは、被告上原の供述のほか、三つの信号が系統式の信号であるということであり、乙四号証の一ないし八(昼に写した写真)、乙六号証(会社の担当者の陳述書)を提出する。しかし、写真を検討すると、昼に写した写真であるから、この写真から夜も系統式の信号であったと認めることはできない。また、陳述書を検討すると、夜間走行したところ系統式の信号であったという内容であるが、だからといって、本件事故当時も系統式の信号であったということはできない。かえって、被告上原の供述によっても、警察官は系統式でないと述べていたというのであり、調査嘱託の結果によれば、三つの信号は、系統制御(互いに青開始時間について関連を持たせて動作させる制御方式)しているが、信号機表示周期は、時々刻々の交通量の増減に対し信号の表示秒数を常時変更するようなシステムになっていることが認められる。したがって、やはり、三つの信号が同時に青信号であったと認めることはできない。
4 したがって、証人奥松の証言、原告の供述によれば、原告は青信号で交差点に進入したと認めることができる。
これに対し、被告上原の供述、そのほかの証拠によっても、三つの信号が同時に青信号になるとか、被告上原が青信号で交差点に進入したと認めることはできない。
したがって、原告に過失はなく、被告上原に赤信号を無視した過失がある。
二 損害
1 証拠(甲二ないし一一号証、弁論の全趣旨)によれば、原告は、修理費などとして、六五万六九九〇円の損害を被ったと認めることができる。
2 しかし、これらの証拠によっても、評価損は認められない。
つまり、確かに、原告車両は外車であり、修理費の当初の見積もりは約一〇四万円であるが、原告車両の左前の前照灯付近に損傷を受けたにとどまり、修理の内容も、フロントバンパー、スポイラー、左ヘッドランプの取り替え、ボンネットの板金などであり、一九九〇年初度登録で、走行距離が約六万キロメートルに及んでおり、評価損が生じたとまでは認めるに足りないからである。
三 被告らの主張
1 前記認定のとおり、原告には過失がないから、被告らの主張を採用することはできない。
2 付言すると、被告らが主張する相殺の抗弁は、いわゆる不法行為債権を受働債権とする相殺であり、相殺は許されない(最高裁昭和四九年六月二八日判決参照)。
四 弁護士費用
弁護士費用は、一〇万円が相当である。
五 結論
1 損害金 七五万六九九〇円
2 遅延損害金 本件事故日から支払済みまで年五分の割合による金員
(裁判官 齋藤清文)